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旅日記-我ら青春の1ページ 伊豆半島一周    第5日     中木-波勝崎-雲見
     昭和35年(1960年)3月15日 火曜日   晴ときどき曇      
                                       今日の地図
 

 朝、六時前から蚤が出て、足をくわれ、目が覚める。 皆んなは六時十分頃起き、ねむい目をこすりながら洗面所へ。 ここもW.C.と豚のが充満していて何とも言えぬ臭いだった。 我々が朝食を食う頃は、オッサンの息子(*1)たち--AさんやM子ちゃん、Mちゃん――はすでに学校へ出かけていたようだ。 今日のおかずは、飯に、オッサンのもってくれたみそしる。 それに昨夜のサヤエンドウ(*2)とゴボウを塩辛く煮詰めたもの。 このゴボウを原因として、爆発が出るかと思ったが、案の定、波勝で噴火した。 今朝の飯は、鉢に1/3近く残った。 一人が減食すると(*3)こんなにも違うのかと思うと驚きである。
 さあ、出発!!オッサンと別れて、門を出た。 途中、例のオジイチャンに会い、又お別れして差田へと向かう。(*4)
  一色を越えて峠を通り、妻良港に出て、波勝崎への船の連絡を尋ねたところ、子浦の方にあるとのことで移動する。 ここでも又親切なお兄ちゃんに逢い、12時に出発する船で行くことになった。 これまで1時半の間、海岸で休息を取る。 ここで、パン半斤、アンパン等を買い、ここの女の子に目をつけ、再びリンゴを買いに行く。飢えた人間もいたことだ。淋しいかな!(*5)
 12時15分船に近ずき、皆小用をたそうとすると、大原が大きな鯉 (海に居るはずがないが(*6)
)らしき魚を見つけ、近くにいたオジイさんと協同して奮闘のすえ捕らえる。(*7) これを記念に、オジイさんと写真を撮る。 これに感激したオジイさん、海よりカゴをとりだし、伊勢エビを一尾くれた。 今日は何とツイているのだろう。 今日は僕の当番であり、又、朝起きは三文の徳とでも申しましょうか、何しろ運がよかった。 後で旅館のオバさんに聞くと、伊勢エビは原価で200円、東京では500円にもなる高価であると聞いてオジイさんの気前の良さには驚いた。 よほど感激したのだろう。(*8)
 
先ほどのお兄ちゃんがオジイさんの息子さんらしい。 オジイさんの名前はSさんで、これから我々が乗る船の所有者でもあり、電話も家に引いてあるとのことで、かなり裕福な人のようであった。 次の機会には、ただで泊めてくれるとのことで、我々もゆっくり夏にでも来て、魚とりや水泳をしたい。 先に述べるのを忘れたが、例の魚の名前は「いずすみ」といい、焼いてもにてもおいしいとのこと。 魚との奮闘のとき、小用を忘れている愚かな者もいたことだ。
 息子さんの船頭で、我々は海
に出た。 海、海、絶壁。 岩にしぶきを与えている、波、我々だけ乗った船も格別楽しいものだ。 眼鏡が潮風により曇っている者あり。
 ―-- 着いた。 波勝崎に着いた。 遠くには女四人に男三人の楽しそうなグループ。――別に妬いているわけではないが、(*9)
 ここで猿に会えるかと期待していたところ、今さっきまで下りていたが、工事現場でのハッパ作業で上に登ってしまったとか。(*10)―- 実に残念だったが、我々の顔を見合すことで少しでも満足できた。(*11) 我々はここから雲見まで歩いて行こうかと思ったが、居合わせた船が、一人五十円で乗せてくれるとのことで、グループたちと雲見、松崎へと向う。 途中のスフィンクスに似た岩、東海岸とは又違った趣があった。
 我々もグループに対抗して唄い、騒ぐと――淋しかったのだろう――相手方は沈黙してしまったようだ。(*12) 

雲見海岸にイカリを下ろし、グループらと別れ、歌を唄いながら旅館を探った。 この雲見には旅館が1つしかなく、民家を訪ねようと思ったが、この旅館に交渉してみた。 ここで病人らしき(*13
女主人が出てきて交渉した結果、一泊300円に値下げさせて(*14)落ちつくことに決めた。 我々にはめずらしい伊勢エビと「いずすみ」と写真を撮った。 そこへ一人の客が見え、彼と共に10分近く歩いて海岸にある野天風呂に入った。 ここは昨年の台風で流されたそうで、今は掘立小屋の中にあった。 ここは男風呂と女風呂が別れていたのでいささか期待はずれだった。(*15) 湯の温度が42℃近くで、僕にはぬるすぎた。 上がり着物を着ている時一つの事故があった。 我々四人の男には異常はなく、先ほどの彼が卒倒し、僕が裸体のまま抱き起した。 その気分は異様なものだった。ここで彼を寝かせ、我々は旅館へ向った。 後に彼に感謝され、いささか気分がよかった(気もひけた)。 
 夕食には驚いた。 飯は少いし、又、副食は我々が持っていったエビに例の魚とすいもの、たくわんだけで、値切りすぎた感をもった。 その後、お茶菓子を買ってきてウィスキーを飲む。 ねむくなる。 女中がふとんを敷いてくれて、明日の昼食を一人50円にすることを交渉する。 じゃんけんの末、寝床をきめて、明日七時に起きるように目をつぶる。

  今日の教訓:「早起きは三文<=500円+100円>の徳」ということは真であることが実証された。
――旅館の名前  稲葉館  
                                          y.m.


                                          今日の地図

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