雀おどり?  烏おどし?
  下諏訪宿を出て、岡谷、そして塩尻峠を越えると立派な大きな屋根の家々が現われる。 これらはどれも本棟造りである。 あるいは大破風造りとも呼ばれ、信州の松本平、木曽谷そして伊那谷に多い。 江戸時代には庄屋や本陣など、上級の民家だけに許された、特権的な形式という(川村善之:日本民家の造形、淡交社)。美しく、実に見事な建物である。

 その大屋根の正面屋根構えの頂点に、棟飾りが据えられている。 その名は、
「雀おどり」、「雀おどし」、「烏(カラス)おどし」、「烏どまり」とさまざまである。 中山道も、まだ東の地方を歩いていたときにも時々現われ、そのころは「烏(カラス)おどし」と聞いていたように思う。 調べてみると、規模の大小や形によって呼び名が変わるという。 しかし、どんな形をどう呼ぶのかは分からない。 翼を広げたような形では、鳥(トリ)が踊っている、あるいは躍っている姿にたしかに似ているようにも思う。  一方、このような建物の飾りには、もともと、実用的な意味があったのではないかとも思う。 そうだとすれば、厄介もののカラスを追い払う意味の方が納得できるのだが、などと考えながら歩いた。

 帰って調べてみたら、住んでいた子供の頃の記憶にはないのだが、「雀踊り」なる踊りが、仙台の夏の祭で踊られることを知った。 また、「小躍り」と同じ意味で「雀躍り」という喜びを表す言葉もあるし、雀の踊る姿が象徴的に使われることがあるのかもしれない。 なお、「雀おどし」で検索してみると、田圃で爆音を鳴らして雀を追い払う道具のことが書かれたサイトが多いようで、さほどの他の意味はなさそうである。

 下の写真は、今回の中山道歩きの下諏訪-洗馬間で撮ったものである。 特に、一番上の棟飾りは国の重要文化財である堀内家住宅の大屋根にあるもので、このデザインは最高傑作とも云われる。 巨大なその姿は迫力満点である。 巨大で迫力のある棟飾りであるから、踊っている姿として、雀では可愛らしすぎるような気もする。

 これらの飾りは、なぜ、どのようにして生まれたのだろうか。 
ちょっと調べただけでは分からなかったが、大社造り(出雲大社)からきているのではないかという意見があるようだ。 二本の垂木を交差させた二組の千木(ちぎ)が屋根の両端にあるのだが、これはたしかに、下の写真の2段目の左、あるいはその右端の単純な飾りに似てはいる。いや、大社造だけではない。神明造り(伊勢神宮)や住吉造り(住吉神社)にも千木がある。 何といっても、格式を象徴する棟造りの飾りである。 だから、神社建築から来ているということも或いはあるのかもしれないと思う。 さらに遡るならば、あるいは別の見方をすれば、古代、丸太を二本合わせ、上部を縄で縛って屋根を作ったときの名残だろうか。

 信州南部の、この立派な
本棟造りと見事な棟飾りは、信州における木の文化を示す代表例であろう。 中山道歩きの収穫である。