旅日記-我ら青春の1ページ 東北(下北・十和田)の旅   

第7日  十和田湖・子の口―奥入瀬―焼山―八甲田山―青森―夜行急行・津軽号


註: <文中の赤色の小さい文字は旅から帰った後に書き込まれた落書きです>
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   昭和37年10月7日 日曜日   晴れ    田中  
 
  5時30分、襖ごしにおねえさん達がドシドシ歩くので何となく目覚め、水島の”ナニ”で完全に起きてしまった。 晴である。 さすがに冷えるが早速着がえて升谷と朝もやに煙る湖面に目をやる。 静まり返ったすがすがしさは日中の混雑など想像だにさせない程だ。  服部は昨夜からの読書にふけるし、水島は知らぬ顔して動かず
。 ガバッとはね起きた大原は自分でけっ飛ばした丹前を拾い上げるや ”夜中に升谷が引っ張った”というが相手にされない。 
  7時30分朝食。 昨晩でこりて飯は洗面器様の容器にうんと持って来た。 ”金がないから残りをむすびにしてくれ”と平気なもんである。 これが貴重な昼食だけど塩くらいつけてくれただろうか。
  9時30分子の口出発。 3時間ほど奥入瀬の渓流に沿って下った。 ジロジロ、ブラブラ、テクること10km余り。 例のむすびを1個と5分の3個ずつ食い、相変わらずバスに手をふりゃ高校生野郎は帽子を振るし、オバさんはニッコリこたえる。
<娘さんはニッコリして手を振る> 大原、しっかりしようぜ!!  でもわずかに紅葉した原始林の緑とひんやりした香りは我々の心を充分に包んで余りあるものであった。 行き合うメッチェンはともかく、同じ目つきの若者達や、砂ホコリを舞い上げる車族がいなかったらもっともっとよかたろうに・・・・・。  途中足が痛いと言い出す奴が出て、一同これには困ったが仕方なくペースを落とす。 いく度となくかけたモーション空しく一路焼山へのハイキングであった。 
  焼山からバス。 またまた原始林とその奥に深く沈むいくつかの湖を車窓に酸ヶ湯
<蔦温泉>を過ぎる。 車中に青森の女の子数人。 一口に青森の子といってもいささかいろいろございました。 大原をびっくりさせる相当・・のもいるし、ほんのちょっとかわいい子もいて水島思わず鼻の下に手を当て横目でチラッ!(かわいいのは素直にのぞいているひざ小僧でした)  酸ヶ湯をちょっと過ぎる頃から紅葉は一層美しくなった。 無心に彩りを競いやがて消え行くのもあと数日だろう。 升谷がくやしがること、くやしがること。 一人でモソモソ落ち着かず、ついに下車しようと言い出した。 アア・・とか、ウンとか気のない返事。 だってヒザ小僧の女の子も気になるし、サトーさんも素敵でしたから。 その彼女と升谷が話をしている。 面白くないが一枚サービス。 パチリ。 写ってなくてもかまわないと思っている中、八甲田のふもと(?)で下車させられ、ここで一枚彼に撮らせる。 この写真がせめてものなぐさみだ。 つべこべ云わずに焼き付けてくれ。 彼女の横顔が良かった。 ピチッと切れた瞳にはひかえめなやさしさと東京に少ない何かがあったよ。 哀れなドンファン達、彼女を余り困らせるなよ。 我を忘れて友情まで失うことなかれ! 名言だが考えてみると世の中にはつまらない男はうじゃうじゃいて、我々よりつまらぬ男もまたうじゃうじゃいて、ぞろぞろ十和田へやって来て、彼女のバスに乗る。 現実的な男共の前に大自然の力など一瞬無力となるから数え切れぬ視線が彼女に注がれて、皆勝手なことを考えて、・・・・・・・・・。結局遠慮はいらないんだ。 しっかりやろうぜ。 <彼女の力でつまらない男も立派になると思います> 
  気の向くままに付近を1時間余り散歩。 服部持参の東京のカンズメをジャンケンで食う。 すぐ前には青森の高校生パーティの明るい若々しさがいっぱい。 つい数日前の如く思われる過ぎし日の自分の姿を見、その雰囲気に引き込まれ、うかつにも写真16枚を送る約束をする。 ふと気付くと太陽は低い夕雲にかくれ、秋の冷気が駆け足で迫ってくる。 思わずジャンパーの襟を立て立ち上がる。 厚生省直営のトイレに寄ってそろそろ帰ろう。 さすがに疲れたか皆おとなしくバスに揺られている。 ガイドも何も云わず青森駅へ。 暮れ行く窓外には貧しいまでに素朴な生活が我々に何かを語りかける。 黙々と繰り返されてきたこの人たちの毎日にはどんな喜びと幸福があったのかな。 それは我々の環境と経験では理解しがたいものだろう。
  18:00 急行津軽にどうやら落ち着く。 土産も買ってホッとするや、とたんに空腹感が押し寄せる。 むずび1ヶで良く頑張ったものだ。 30円、5円と残金の計算に余計気がめいる。 あまりみっともないこと云うなよ。 隣りは生意気な高校生だぜ。 停車する度に水島、大原が反射的に飛び出すも弁当にありつけず。 秋田でやっと食う。 服部のわきに来た東北の人らしき若き女性。 ”どこまで行くの?” ”ボソボソ・・・・・”、 ”近いの?” ”・・・・近くない・・・・・”、”荷物棚にのせる?” ”ブツ、ブツ・・・・”、モジモジ。  残念でした。 彼女はハンカチを顔に寝たふりをする。 荷物でひざを隠しながら。 
<田中はその娘の前で顔を赤らめる!> 
  ああ、あと十四、五時間、とてもじゃないけど日記なんか書けないよ。 後日忘れぬうちに書くとして、マヒ寸前の頭を休ませてくれ。 車内は適当なスチーム。 升谷の鼻がまた乾きだしたという
<黒くなってきたあと>
 
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