旅日記-我ら青春の1ページ 東北(下北・十和田)の旅   

第6日  大湯温泉
十和田湖・休屋子の口

註: <文中の赤色の小さい文字は旅から帰った後に書き込まれた落書きです>
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   昭和37年10月6日 土曜日   素晴らしい天気   升谷  
 
  「眺めの良い」二階の部屋で目を覚ましたのは6時ごろ。  いよいよデートの日というのでみんな張り切っている。 升谷も無事回復。
7時半のバスでまた十和田南へ戻る。  土曜日のせいだろう、駅前は色とりどりの客で混雑している。 若い娘を探してキョロキョロしている男もいる。 トイレで用をたしていたら窓から田中、服部の乗ったカーが入ってくるのが見える。 
  美しき女性に囲まれて変り映えのしないご両人がニヤニヤと現れる。 
<田中、服部の合流で疲れきった三君も元気回復>  十和田湖行きのバスの前は相当混雑していたが、うまくやって二台目の最後部の席を占める。 久し振りの再会に話が弾む。 大湯川に沿ってエアサスペンションのバスは快適に進む。 後から来るバスの車掌さんに手を振る奴もいる。 まだ紅葉にはちょっと早いようだ。 それでもすでに真っ赤に紅葉して目を楽しませてくれる木もある。  樹々の間に見える滝をいくつか通過したころ、後から来た例のバスが我々のバスを追い越してしまった。 みんな残念がることしきり。  だが、後から来たバスが我々のを追い越したのは運転手氏がヤキモチを焼いたためではなかった。 我々のバスのエンジンの不調に気付いたので、それを知らせてくれたのだった。 間もなく車はある集落でエンコ。 待ってましたとばかりトイレに走る仲間もいた。 そのトイレで別にめずらしくもないモノをみて喜んでいる男。 それを聞いて無理してトイレに立つ男。 <それを写真に写す男> バスがエンコしている間に紅いリンゴを買う。 美しかりし<からざる>女性から。   東北の人は遠慮深い。 他の土地から来た人には特にそうだ。 余計なことを言わないし、必要なことさえなかなか口に出さない。  これは小学校時代、東北に過ごした時の経験でも言えることだ。 山に囲まれた自然条件がそうさせているのか。 貧しさがその原因か。 <これは90%まで言葉のため>  そういう口数の少ない上に何を言っているか全くわからない方言のために話が全然通じないことが何度もあった。 でも、きっとどこの人にも増して純朴であるといえると思う。  
  故障の直ったバスは再び坂道を走る。 やがて道は下り始め、樹の間に青い水面が見えてくる。 十和田湖だ。 とても青い。 発荷峠で下車。 展望台から湖の全景が見える。 周囲を色づいた樹々の壁に囲まれた湖は静かだった。 文句のつけようのない景色だ。 たしかに美しい。 下北半島や小川原湖を思い出した。 あそこにはこんな美しいところはなかった。 バスも土地の人と行商の人が乗っていただけだった。 小川原湖の船の車掌さんは云っていた。 「別にきれいな景色があるわけでもないですスナ・・・・」と。 観光用のパンフレットは用意してあったが・・・・・。 十和田湖は恵まれている。 華やかな服装の人がたくさん訪れる。 自家用車だって次々に登ってくる。 この土地の人だってきっと喜んでいるだろう。 でも、なんだか「下北や小川原湖だって素晴らしいところだ」と大声で展望台にいる人々に叫びたくなる。 どうしてだろう? 
<理由は人間をひきつけるからだ> うすよごれた板で囲った粗末な家に水を貰いに行ったとき、部屋の中に積み上げたコンブが印象に残る。 
  発荷峠からバスは九十九曲りをおりる。 大原は一つ一つカーブを数えていたが72だったそうだ。 本当は77で、22は国鉄のサービスとか。 湖畔の道路は実に気持ちが良い。 和井内ホテルなるユースホステルの側を快適に走る。 水がきれいだ。 終点の休屋は阿寒湖畔を思わせる盛り場だ。 船の切符を買う。 一人160円。 去年までは学割があったそうだ。 次の船まで待つことにして湖畔を歩いて高村光太郎の”湖畔の乙女”を見に行く。 記念写真を撮る人でいっぱいだ。
  我々の乗る船はあまり大きくなかった。 例によって最後部のデッキに出る。 大原は何を考えたか屋根の上に昇る。 
<自分の目で景色を見るため>  田中はレンズを望遠に変えてカラーフィルムにガイドさんばかり写している。 勿体ない。  中山半島、御倉半島が美しい。 女性的な景色か、男性的な景色かを議論している奴もいる。  風が冷たい。 ガイドさんが「湖畔の乙女」の歌を教えてくれた。 うしろからみんなで<升谷は屋根の上の女性のある部分に注目していた>注目するものだからガイド嬢すっかりあがっている。 顔を赤くしている。  船を下りるとき大原は切符をせしめてしまった。 あとのみんなは喜んで<ウソ云え>ガイドさんに返した。 
  すぐに宿探しを始めた。 子の口は休屋より静かだ。 営林署の保養所を訪ねたが満員とのこと。 となりの十和田レストハウスに交渉する。 全てで800円で成立。 下は食堂になっていてものすごく賑やかだ。 100円也の玉子ドンブリを食べて、はがきを書いて外に出る。 奥入瀬川を渡り湖畔を歩く。 ビール瓶を水に浮かべて石を投げたり、釣れないことが分かっているのに真剣な顔をして釣り糸をたらす男。  カメラをぶら下げて花を探すロマンティックな男。 壊れたボートで遊ぶ変わった男。 女性がいないとみんなやることのピントが狂ってくるらしい。
<いても狂っている男だっている>  帰りには奥入瀬川の橋の上でハント失敗。 ここでも読みが浅かった。 <水島と服部が援護射撃したがダメ> <邪魔したからダメ> 
  部屋は三階の大広間の半分。 だだっ広いだけの部屋。 隣りが下の店員さんの寝室と知って大喜びする奴もいる。 なかなか夕飯にならないのでみんなやきもきする。
<6時55分の最終バスに手を振りました>  面白い女性が次々に現れる。<オラ知らんドゥ>  夕飯後は散歩するもの、ラブレターを書くもの、トランプを出して女性を待つもの・・・・・・。<僕は日記を書いていました> 何度か店員さんにモーションをかけるが見事振られる。 布団の中に入ってからも残念がっている。 ふすまの向こうもにぎやかだ。 出たり入ったり、また出たり。 <その度に大原のコンチャンスタイルを見ては笑って通る> 我々の部屋の一隅を通るので気にしないわけに行かない。 一生懸命教科書を読む奴もいた。 騒々しさにあきれて何度か文句を言っている間にいつの間にか寝てしまった。 
    明日は奥入瀬を下る予定。 最後の晩だったがあまりついていなかった。 おやすみなさい
                         
                           
子の口・蔦温泉・八甲田山付近の地図
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