旅日記-わが青春の1ページその2  北海道一周 第13日   石山・定山渓  



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1960年(昭和35年)8月6日(土)   晴         masu
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豊羽鉱山石山選鉱場合宿所で目をさましたのは6時半。 きのうは撞球、マージャンとそれに加えてふとんの中でタノシイ話をしたので、6時のサイレンを聞いたのは一人だけらしい。
 朝食を澄ませると7時40分のバスで鉱山本山に出発。 豊平川沿いの国道は工事中でいたるところ、でどぼこがつづき霧ならぬほこりで先が見えぬ程。 それでも定山渓の温泉街をすぎるとようやくきれいな緑が道の両側を走る。 遠くに望まれる無意根山にはまだ雪が残っているらしく白く光っている。 バス道路の途中、頭上を鉱石を積んだバスケットケーブルが横切って、これから見学する鉱山への期待を大きくする。
 本山に到着すると、副所長さん、課長さんにあいさつしてから二階で山について説明してもらう。 分かったのか分からないのか分からない様な顔をしてみんな聞いている。 
  採掘しているのは、Pb、Zn、FeSの鉱石とAn、Agもいくらか出るという。 坑道は海抜526mをレベルとして下に30mずつ下がって最深坑道は300mという。 坑内からは温泉(61℃)が出て相当熱いのでエアーコンディションを行って34℃以下におさえているそうだ。 説明を聞き終わるといよいよ坑内服に着がえる。 下着、靴下、ずぼん、上着すべてかえて頭にはヘルメット。 国会周辺で見慣れたヘルメットも頭にのっけてみるとちょっと緊張する。 坑道入り口ではキャップランプをつけ、姿だけは一人前の坑夫。 水島、大原はとくによく似合う。 中に入るとトロッコのレールが泥によごれている。 思ったよりずっと涼しい。 キャップランプの光が暗やみを照らすとごつごつした岩肌がにぶく光る。 坑道の足下にはトロッコのレール、頭上には電線、そしてサイドにはエアコンプレッサーから送られる圧縮空気その他のパイプが暗やみに走っている。 しばらく行くと第三縦坑にぶつかる。 ベルが鳴って”マンリフト”が到着(エレベーターとは云わないらしい)。 鉄の輪につかまるとゴットンゴットンゆれながら下へ下へと。 (デパートとカン違いしたわけでもないが、上へのぼるつもりでいたら下へ動き出したのでびっくり)。 150m下の横坑へおりるとまた歩いて穴ぐらへ入る。 坑道というともっと雑然として坑木が入り組んでいるのかと思ったら案外整然としていて気持ち良い。<あまり気持ちよくて頭をぶつけることしきり> 地の底に下りるというような悲壮感みたいなものさえ感じていたが、ここにはそんなものはなかった。 坑道の最前線には削岩機がうなっていた。 二本仕立てのジャンボーが穴をあけている。 午後二時には発破をかけるという。 ここには二本の送風管から涼しい風が吹き出している。 坑口から遠く離れて鉱石に削岩機をぶつける男はたくましい。 何を考えているのだろう。
 11時過ぎもと来た道を引き返す。 縦横に走る坑道だからこんなところに一人放り出されたら二三日さまよわなければ帰れないだろう。 天井が低いのでヘルメットをパイプや電灯にぶつける者続出。 
 着がえを済ませて昼食をごちそうになる。 あこがれのサッポロビールを、”僕達飲めないんです”といいながらも顔色も変えずに飲んじゃった<(注。3人だけ、1人はほんのりと顔を染める)> 12時半、近くのバスで再び石山選鉱場へ。 バスはものすごいバウンドで昼寝もできない。 札幌が近いせいかこの辺の家は独特な煙突をもった洒落たのが多い。 
 札幌の街はバスの窓から見たかぎり東京とあまり違わないようだ。 ただ道が広くまっすぐなのは気持ちが良い・ そこをバスと並んで鈴をつけた馬車がのんびり走るのも面白い。 家々も別にに変わった建て方はしていないがどれも立派な煙突をもっている。 ”サンタクロースも入れそうだ”と誰かが云っていた。 
 石山の選鉱場では見晴しの良いところで先ず説明を聞く。 今度は我々を鉱山学科の学生と思い込んだのか専門用語をふんだんに使うので面食らう。 松戸の講義で聞いていたのでいくらか分かったつもりだったけど、なかなか質問もできない。 うっかり質問すると化けの皮がはげてしまうもの...。 それでも原鉱石がクラッシャー、ミルと砕かれ泥状に混ぜられ、起泡材とCuSO4その他を加えて浮遊選鉱し、最後に粉状の精亜鉛鉱・・・・が出てくるのを見れば、良く分からないなりにも面白い。 大きな工場にしては工員の数がひどく少ない。 すべてコンベヤーを使ったオートマティックになっているからだろう。 医学、経済、化学と皆どんな風に見たか分からないが貴重な勉強になったことと思う。 
 4時過ぎ、またバスで定山渓へ。 定山渓の温泉街は”札幌の熱海”的な存在で渓谷そのものを楽しみに来る人は殆どいないようだ。 大きな旅館が軒を並べ、バーもパチンコ屋もある。 だけども熱海のような不潔感はない。 阿寒湖畔の温泉街よりむしろずっと健康的に見える。 良い意味で都会的に洗練されているのかもしれない...<ひいき的に見てだ>。 ガラス張りの開放的な大浴室がバスの窓からも見える<何時までも見ようとする奴もあり> 北海道の人間はおおらかなのかしら<女中に話したら、女中曰く「お互いでしょう?>。 売店の前にはやっぱり小熊がつながれている。 無邪気に遊んでいる姿を見るとよけいに可哀相に見える。 
 今日のお宿は豊羽鉱山のお世話で大きな旅館「北海荘」だ。 三間つきのきれいな部屋に通される。 風呂は始めての大浴場でやっぱりガラス張りだ。 夕食は今でにない豪華なもので、一寸心配になる。 初めて女中さんがお給仕してくれる。 かに、エビがあっても食い方を知らない。 他を平らげてから両手10本の指を総動員してかじりつく。 女中さんを冷やかすことにかけてみんなすっかりうまくなったようだ。 <特にハツ> 散歩から帰ると誘われて宿のバーへ。 四人で一本のビールをウィスキーのごとき飲み方でねばって音楽を聴き、200円也。
 窓からみると近くの山が月に黒く浮かんで不気味なほど迫ってくる。 北海道最後の宿の夜は静かに、平和に深まってゆく。 
 もう三人は寝てしまった。 おやすみなさい。

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