旅日記-わが青春の1ページその2 北海道一周 第10日  網走原生花園・留辺蘂  

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1960年(昭和35年)8月3日(水) 晴 一時雨         ooh
                                            今日の地図

網走の朝も屋根の下では静かにあけた。
 水島が床から離れない間に女中さんが現れた。 彼が床から離れるのは常に四人の最後である。 念のため。 朝食はあわただしく終わった。夕食に比べて御飯は豊富であった。 7時45分出発。 8時03分網走発の第1摩周号に乗る。 列車には我々が思う補助イスとは異なる補助イスがあって我々はそれを利用した。 網走を出て少しすると海が見える。オホーツク海だ。 無数の人間を前にしてひるまず、冬の寒さにはとても人間をよせつけない厳しさを持つといわれるこの海もなぜか今日は静かだ。 しかし色をもたない海だ。 どこまでもどこまでも灰色だ。 灰色の海の上には船も人も波さえもほとんど見えない。 列車はこの海を右にやがてトウフツ湖を左に見て快適に走る。 やがて浜小清水に到着。 おりる。 
 思えばよく来たものだ。 列車の距離的には東京から最も離れているところだ。 しかし、底にも同じ人間が美を求め、静けさを求め、ロマンス<恋人>を求めて集まっている。 我々は今何を求めているのだろうか<慈善家の乙女>。 浜小清水は小清水に対して浜にあるからそう言われるのだろう。 
 共に列車からおりた人々はバスに乗り先に進み、我々四人だけがあまり重くもない荷物を背負って第一展望台へ上る。 オホーツク海を目前に停止した状態で見る。 波はほとんどない。
 かすかに海中に突き出ているのは知床半島か。 海にも、山にも有彩色はない。無彩色だけの枯淡の世界だ。 黒と白の濃淡だけが我々をして空想の世界へ、心の世界へ運ぶ。 今日のオホーツク海は波静かだ。 しかしそのイソの波の音は我々をどこまでもどこまでも追いかけて決してはなさない。 まわりはそんなに静かなのだ。 <これが波の音じゃなかったらなあ>
 我々はだ第一展望台でフィルムの入れ替えを終え出発。 原生花園の中を原生花園の中心へ進む。 露がある。 波の音が聞える。 小鳥も鳴いている。 遠くトウフツ湖の方に牛や馬が殆ど動かないで見える。 落ち着きと激しさの相接する点が我々の立っているところだろう。 しかしこれもイメージの相違だろう。 オホーツクそれ自身のものではないと感じる人もいるかもしれないのである。 
 原生花園の途中で一度海岸に出てみる。 やはり灰色だ。 知床半島はその先端まで姿を見せているようだ。 山が続いて急になくなっているところが先端だろう。 これも灰色だ。 いや黒々した灰色だ。 海と半島の間に濃い、厚いガスがある。 少しはなれたところで土地の人が船になにやら積み込んでいる。 また原生花園中を歩き道路におりて休憩。 ここではるばる東京から運んできた心づくしの差し入れ品を少し処分。 これも東京から運んだホープも処分。 スピードアップして前進。 大体目的地まできた。 ここでカンパンの昼食とする。大体花の盛りは過ぎているようだ。 しかしトウフツ湖側の牧場風景は快い。 しきりに入ってみたいという奴もいるが無断入場厳禁とあらば良識ある(?)我々は入らない。 入った奴もいるが字の読めない奴等は困る。 おかげで我々のイメージの中に変な人間が入ってここはちょっとタンマ。
 この辺で少し勉強をしておく。 原生花園及びその付近で見られる植物名を我々四人が知っている限り書く。
   
エゾカワラナデシコ オオヤマフスマ アキカラマツ エゾハマハタザオ ムラサキベンケイソウ シロワレモコウ
ツルキシムシロ ナワシロイチゴ センダイハギ シロツメクサ アカツメクサ クサフジ
ヒロハクサフジ ナンテンハギ フタバハギ ハマフウロ スミレ アレヂマツヨイグサ
マルバサイコ エゾノシシウド カラフトニンジン オニカサモチ マルバトウキ ナミキソウ
ムシャリンドウ エゾオオバコ エゾカワラマツバ ツリガネニンジン キタノコギリソウ オトコヨモギ
エゾヨモギ カセンソウ ヤナギタンポポ コウゾリナ コガネギク エゾタンポポ
ハマニンニク ハマギク ウシノケグサ ナガハグサ ネムロスゲ ミヤマラッキョウ
キジカクシ スズラン エゾキスゲ クロユリ マイズルソウ ヒメイズイ
ヤマホウコ エゾミソハギ サワギキョウ ヤナギラン フタマタフチゲ エゾエンゴサク
ヒオウギアヤメ オオバナノエンレイソウ エゾノエイホウムギ オグルマ ハマニガナ シカギク
シロヨモギ スナビキョウ ハマベンケイソウ ハマニルガオ ハマボウフウ ハマフウロ
ハマエンドウ ハマナス オカヒジキ フッキソウ フクジュソウ エゾスカシユリ
・・・・・・etc・・・・・・                      (注) 青字は写真にリンク 北海道の花・自然ページより
      <ご苦労様でした。 これを全部読んだらさぞかし疲れるでしょう。 1/4でやめときます。>
 とにかく、こんなにあるのだそうだ
 四人も集まればこんなに多くの植物の名を読むことができる(ハマナスが最も多く見られる)。 こうやっていて時間を失う。急いで歩いているとき、水島が変なかっこうをしたらトラックがとまった。 とにかく乗る。 スゴイスピード、スゴイ風、おかげで歩いて30分以上の距離を5分足らずで来た。 北海道内いや我々初のヒッチハイク。 浜小清水駅前でお礼を言ってサヨナラ。 駅で水のあり場所を聞く。 駅の屋根の下の井戸を教えてくれる。 そこで水を飲む。 やがて、やはり第1摩周号に乗って網走へ。 途中少し色のついたオホーツクを見た。 水島は車中只一人はなれて美人のそばに座っていたが・・・・・・。(横ばかり気になってねむってしまったそうだ) 網走着。
 すぐ”はなます”に乗り出発。 車中盛んにウィンクをやる者あり。 哀れなるかな飢えたるものよ。 フラレたる者よ。 汝らはいつになれば救われるのだろうか。 
 やがて、雨がふり出し他の3人はねむってしまう。 一人窓の外の雨を見る。 来つるものかは・・・・。 こうして”広場の孤独”を味わっているといろいろの人々のことが思い出される。 なつかしいあの人々よ、今は健康か。<竜頭蛇尾>
 3時12分ルベシベ(留辺蘂)着。 駅でボンユ温泉への道を問う。 線路を歩き鉄橋を渡りやがて意外に大きなところに来て、何がなにやらさっぱりわからない間にとにかくここに寝ることにする。 温泉に入る。 先着の女性一人あるも、とにかく共に入る。 北海道初の混浴。 食事後水泳。 りっぱなきたない25mプールで3人泳ぐ。 もう一度温泉。 作戦会議。 ・・・・のノゾキ。<せつない>笑い。 ノシイカ食い、テレビを見、ごそごそして本日終り。 北海道旅行の楽しみは半分どっかにいっちっち。 皆少しバテ気味。 時間を持て余し飢えたる心を互いの悪口にまぎらすのみ。
 早く帰るところに帰って<それから大阪へ行って>落着くべきかも知れない。 人間の異性への愛情に対する飢えは風景とそれに伴うイメージでは62%しか解決されないようだ。 しかし、明日の日程にも期待はある。 明日はいよいよ本当の北海道の中心だ。
 <今度の旅行の収穫のひとつ----大原がたいへん女性の人気を集め、それに正比例して大原の女性に対する理解度が増加したること。世の女性よよろこぶべきし。 新たな女性崇拝者の出現を!>
                                            
                                            今日の地図

網走原生花園のこのごろ


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