赤瓦あれこれ (その2)
 赤瓦についてさらに思った。今回の旧北陸道の3週間前にオランダ、ベルギー、ルクセンブルグの旅をした。そのときに屋根に注目していると、南に下るほど黒い屋根が多くなることが分かった。オランダは赤瓦が多く、ベルギー南部では黒が増え、ルクセンブルグでは殆ど黒である。ルクセンブルグでも材質はいろいろあるようで、瓦のほか、石板や現代の新材料もありそうだが赤い屋根は見なかった。オランダでは赤瓦が多いが黒瓦もある。黒瓦はコスト高ゆえ、豊かな人が使うと聞いた記憶がある。一人あたりのGNPが世界一を続けているルクセンブルグが黒瓦だからなるほどと納得した。さらに、オランダでは一軒の家で赤、黒の両方を使うところがあるとも聞いたので、観察して見ると、あちらこちらで見ることができた。たとえば、デルフトにあった。下の写真の角の建物と左奥の建物には赤と黒瓦の両方が使われている。
 オランダ・デルフトの赤瓦/黒瓦併用の家
 
ベルギー・ブルージュの黒瓦と見紛う赤瓦 
 こうした観察をしているうちに、赤瓦だと思うものの、ほとんど黒かと間違うほどの瓦が多いことに気付いた。ベルギーでも同様である。右下の写真はブルージュの住宅街で、黒瓦と見紛うほどの赤瓦が載っている。もともと、ヨーロッパの赤瓦は酸化焼成による素焼き瓦だろうから、汚れやすく、変色しやすいのだろうが、永いこと使うと殆ど黒瓦に近いほど変色するようである。そういえば、沖縄の赤瓦も同様に素焼きのために変色するので、最近は釉薬をかけた赤瓦に変わりつつあると知った。
 一番下の写真は福留あたりのお宅だが、張り出した1階部分の屋根は光沢のあるすっきりした赤であるが2階の大屋根は赤に黒が混じるまだら模様がある。改築か建て増しした部分は新しい瓦で、古い方がまだら模様の瓦かもしれない。

 しかし、思うのである。いつまでも新品同様の輝きを残す瓦は見事であるが、時を経て黒ずんできた瓦屋根、色ムラが出た屋根は建物の他の部分の枯れ味とマッチしてむしろ味わい深く、風格を感ずるものである。ヨーロッパの赤屋根の町で黒ずんだ赤瓦が多いのは、ひょっとすると、新築や葺き替えでピカピカの屋根でも、住む人や町の人は、むしろ年期を重ねてよい味が出るのを待っているのかもしれない、と思うようになった。いずれ確かめたいものだ。
福留あたりのお宅。さまざまな赤瓦色模様    

と思ってさらに調べると、日本には、わざわざ色ムラを出す焼き方があることを知った。瓦の焼き方の基本である酸化焼成と還元焼成は右か左かと明快に分かれるものでなく、焼いている間に両者を交互に利用したり、ばらつきによって一枚の瓦でも酸化雰囲気と還元雰囲気のところが出るので、色むらが生まれるらしい。逆にこれを利用して味のある赤瓦も作られているのだ。窯変瓦と呼ばれる備前焼と同じ原理とのことで、これによって単調な色彩ではない、古びなくても味のある屋根が作られているようだ。上の福留の大屋根の瓦も、あるいは変色したのではなく、こうした凝った瓦なのであろうか。

 赤瓦といっても、作り方がさまざまで、釉薬がなくても焼きしめた赤色が出せるし、黒ずんだ赤瓦やムラのある瓦などもあるということだ。あるいはヨーロッパでも、古びただけでなく、意識的か、そうなってしまうのか、単純な色ではない瓦もあるのかもしれない。いずれにしても、耐久性を求め、豪華さを求め、あるいは風格のある味わい深い瓦を求めて、技を極める努力はこの赤瓦の世界でも続いてきたようだ。これらも、多彩な日本海側の文化のひとつであろう。